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コンデンサーマイク BM-800 改造作業メモ       (2020年11月25日 記)
                                       (2021年 1月28追記)

  音楽演奏の動画録画・録音の機会があり、声楽用マイクを検討した。
  手持ちのMS式ワンポイントマイクは音質は及第だが、1.5V乾電池駆動のため
  大きな音圧には不安がある。調べると、4年ほど前のネットの記事に中国製の
  安価マイクを改造する事で本格的な高品質のマイクに変わるという情報が見つかり、
  購入し改造を試みた。 
  音楽の収録イベントは中止になり出番がなくなったが改造の経過を下記に記録します。

  BM-800 外観 
   
 ★ 中国製の怪しげなマイクと異名を持つマイク BM−800
   内部の回路とECMマイクの素子は本格的なもののようです。
   2016年くらいに評判になって、その後類似品が数多く出回り、
   2020年の現在は当時の内容と異なる不安な商品が多く有るようです。
   各社製品に共通の筐体は、中国マイク製造業界の中で「キット」の形で流通しているもの
   かも知れない。
   今回は、外見などから中味の予想がつく中古商品を「メルカリ」で見つけて入手しました。 


MEMO

1.BM-800の基本的特徴
 ・サスペンション付き据え置き型(ハンドマイクではない)のECMセル型コンデンサーマイク 
 ・XLRコネクタ(キャノンコネクタ)接続の平行伝送方式 (マイク内の回路は本格的平衡回路)
 ・マイク内の回路への給電方法は、
  @ファントム電源(+48V)が前提で作られているが、
  A附属のケーブル(XLRから 3.5mmプラグに変換する)を使うことで、PCのプラグイン電源(2.8〜5V)型の
   マイクジャックにさしても使える。但し大幅に利得低下(-23〜-31dB)と最大SPLの低下を生ずる。
 ・ECMマイクセルは、直径16mm、初段のはFET外付けのタイプ
 ・筐体は簡単に分解でき、内部にプリント基板を収納できる十分なスペースがある。(加工が容易)
 ・内部回路は本格的で次の回路構成になっている、
  @初段はFET回路、
  Aサレン・キー型フィルタで低域利得補正、
  BバイポーラTRによるフェーズスプリッター回路、
  C出力段はバイポーラTRのエミッタフォロア回路、
  D初段用の低電圧電源(レギュレータ)内蔵。

.2.関連する貴重なネット情報
 BM-800の改造・評価についてネット上にたくさんの記事があります。このメモは下記の記事を参照しています。

<代表的な記事>
 1) ShinさんのPA工作室
   Amazonの超激安コンデンサマイクが高級機に変身する改造(全5編) 
   特に、音響的な評価が貴重です。
   https://ameblo.jp/shin-aiai/entry-12115618790.html

下記は全て1)の内容を受けて追加検証をしている記事。
 2) エレクトレット・コンデンサ・マイクBM-800の改良
   マイクアンプのノイズや周波数数特性の測定結果を数値・グラフで評価している点が特徴。
   http://ayumi.cava.jp/audio/BM-800/BM-800.html
 3) もあい日記  中華マイク BM800改造
   LtSpiceによるシミュレーションや回路モデルにも触れている。
   http://k8.sytes.net/moai/archives/2079
 4) 格安コンデンサマイクBM-800を改造してみた(ソースフォロワ)
   改造の実際を写真で説明している
   https://blog.blogbear.xyz/article/post-769.html

3..BM-800 内部回路図
 <改造後の最終回路>
  

              附属ケーブル接続図 

4.構造写真
 <本体のケース 主要電子回路のシールドを兼ねる>
  
  ・固定リングで簡単に外せる。回路実験にはとても好都合な筐体です。


<ケースの分解写真 クリックすると写真が拡大します">
  



   固定リング アンプ基板 保護ネット コネクタ部分
  



   ECMセル(表) ECMセル(裏) コネクタ結線 コネクタ ピン

5.改造作業
5-1 機械的構造の改造 (マイク接触時の共鳴音の改良)

 <対策後の写真>
  ・ ECMマイクセルのホルダのネジ止めを外して衝撃吸収剤で浮かし、かつ
   マイク周辺にも吸収剤を詰めて質量を増やした。
  
  ・ECMマイクセルホスダ(黄色のプラスチック)の脚部基盤を緩衝材で挟み、
   脱落防止のため針金で固定した。

 <衝撃吸収材 エラストマー レジン>
  ・100円ショップ ダイソーの商品。
  

 <BM-800 デッドニング 筐体を軽く突ついた時の共鳴音比較> (スペクトル動画)>
  
  ・写真上にカーソルを置くと、動画の再生ボタンや画像拡大(縮小)ボタンが出ます。

5-2 回路の改造 (内部PCB板の改良)

1)LTSPICEによる回路解析
  上記第2項のURLの 3)の記事を参考にした。
 <周波数特性>
  LTSpiceによる周波数解析をおこなった。
  初段をソースフォロワー入力にしたため全体利得はが5dB低下した。
  回路図の C1,C2,R7,R5//R6 で サレン・キー型ハイパスフィルターを構成して、ECMの低域不足を補っている。
   (感想) 30年位前は、SPICEによるSimulationには大型計算機を必要としとても高額であった。
        今はPCで簡単に実施できるようになった。便利になりました。 (^_^)

 <改造前回路の周波数特性(Vp=48V)>
   ・平衡動作 出力差動電圧 利得= +3dB @1kHz

  
  ・LTSPICE Sumulatrion modelはこちら(改造前)
                      file name = BM-800 original.asc

 ・不平衡動作     クリックすると写真が拡大します
  

   不平衡 Vp=5V 利得= -22dB 不平衡 V=3V 利得= -30dB

 <最終回路の周波数特性(Vp=48V)>
   ・平衡動作 出力差動電圧 利得= -2dB @1kHz>

  
  ・LTSPICE Sumulatrion modelは、こちら(最終版)
                        file name = BM-800 final.asc

 ・不平衡動作     クリックすると写真が拡大します
  

   不平衡 Vp=5V 利得= -25dB 不平衡 V=3V 利得= -33dB

2) ノイズ改善
a)レギュレータの安定化
 ・初段FETに言々電圧を電圧レグレータに、基準電圧絃として9Vのツェナーダイオードが使用されており、
  ツェナーダイオードのアバランシェ降伏のノイズが抑えきれていない。
   a)レギュレータの出力ノードい 47μFの静電容量を追加し、安定化をはかった。
   b)ツェナーダイオードの後段に 2kΩの抵抗を追加し、既存の20μFの静電容量との組み合わせによる
    ローパスフィルタを形成した。
 ・ 作業手順上、a) → b)の手順で行ったが、出力に表れる1kHzのノイズがそれぞれ 約 9dB, 2dB改善され
  計 約 11dB低減された。

b) 初段FET回路ののソースフォロア化
 ・ PCB上に半田付けされている初段FET(2SK596)のドレイン端子(リード足)をニッパーで切断し、
  グランド間に2.2kΩを追加した。 信号は FETのソース端子から取り出す。
  一方で、ドレイン電圧が振れないように ドレインの接続されている2.2kΩno抵抗はジャンパー線で短絡した。
  これによって、1KhZのノイズレベルは 約 9dB低下した。
  ゲイン低下は実測していないが、Simulationの指そう利得は(+3db→ -2dBで) -5dB低下ししたので、
  ノイズ低下と同程度またはわずかにノイズ低下文より勝り、結果としてS/N比は少し(4dB程度)改善されたと
  推定される。
  最大許容SPLは、2)の記事空推定すると10倍(20dB)程改善された物と思われる。
  しかし、FETのソース端子のバイアス電圧が約 0.6Vなので、ECM出力電圧がこれを越えるほど
  音圧が大きくなったときは、急激にクリップ歪みが発生しそうである。

c)プラグイン使用可否考察と確認
 ・ このマイクはファントム電源(+48V)が前提で作られているが、附属のケーブルを使うことで、
  PCのプラグイン電源型(3〜5V)のマイクジャックに刺しても使える特徴がある。
  ソースフォロア入力に変更しても、プラグイン電圧 2.82Vの時、レギュレータの出力電圧は1、24Vなので
  マイクは正しく動作した。
  しかし 2段目にあるフェーススプリッター回路のトランジスタのエミッタバイアス抵抗の降下電圧は
  わずか25mVしかないので、SPLはこの電圧レベルで抑えられてしまう。(第SPLでは歪み大?)
 ・ 出力コネクタはXLR 3pinだが、元の接続極性は音圧に対して逆相になっていると言う指摘がある。
  今回のソースフォロア化で出力位相は反転したので、位相は正常になったはずである。

5-3.改造中のPCBの写真
<改造途中の基板  クリックすると写真が拡大します>
  

   改造前 初期状態の基板 レギュレータ出力に47μFを追加

 <最終改良後(ソースフォロア)のPCBの様子>
  
  ・パターをカットして、抵抗2本、容量1本を追加した

5-4.出力ノイズスペクトル改善実施
・測定時の条件
  a) 初期
  b) レギュレタの出力ノードに47uFを追加
  c) ツェナーダイオードの後に、2kΩを追加しLPFを構成
  d) 入力段をソースフォロワー回路に変更
  

・結果の比較
1) a)〜b)の比較
 a) 初期の状態
  ・ファンタム電源電圧 0V
  
  ・LHR ファンタム電圧 0Vのノイズスペクトル。 マイク機能停止。
   1KHzのノイスレベル -100dB。 (基準Aレベルとする)

  ・ファンタム電源電圧 48V   (基準Aレベルと定義)
  
  ・LHR ファンタム電圧 48Vのノイズスペクトル。 マイク機能活性化。
   1KHzのノイスレベル -60dB。 (電源=0Vから +40dB 増加)

 b) レギュレタの出力ノードに47μFを追加
 <ノイズの比較-1C Bに 内部レギュレータ出力に47μF追加>
  
  ・LHR ファンタム電圧 48Vのノイズスペクトル。
   1KHzのノイスレベル -69dB。 (電源=0Vから +32dB増、 基準Aから-9dB減)

2) b)〜c)〜d)の比較
 < b)の状態:>
  ・レギュレタの出力ノードに47uFを追加  (基準Bと定義)
  
  ・状態Cを1kHzで -80dBに再セット。

 < c)の状態:>
  ・ツェナーダイオードの後に、2kΩを追加しLPFを構成
  
  ・1kHzで -69dB。 基準Bと比較して -2dB低減

 < d)の状態>
  ・入力段をソースフォロワー回路に変更
  
  ・ソースフォロワー最終回路 1kHzで -91dB 
   基準Bと比較して -11dB低減。、c)と比較で -9dB 低減

<あとがき>
 ・ 今回の改造で、例雑音、高SPL、広い周波数特性、高音質のマイクが得られた。
  USBサウンドキャプチャー装置(UA-25EX)と組み合わせて音の収録に活用したい。



メデタシめでたし (^_^)



<追記> 2021.1.28 記
・ このマイクは気に入っており、TV電話会議などに活用している。
 ビデオ録画の集音にも使用したいと考え、同じ物をもう一つ入手して、ステレオ化をトライした。
 ステレオの集音は、音源の定位間をえるために、マイクの特性の同一性、さらに
 録音内容に合わせたマイクの配置セッティングが重要になるが、好奇心でトライしてみた。


6-1. 追加購入したマイク。
・ BM-800 2号機
 - 形を、色を合わせた BM-800。
 - 発売元(メーカ名 EARAMBLE)は1号機(FLOUREON)と異なる。 外箱には新シリーズと記載されている。
 - 1号機と比較して見ると、筐体はほぼ同じだが、細かい部分に若干の違いか有あ。
  - 本体スリーブ下部のキャップリングに切られているネジの山の総計数が少ない。
  - PT板が、ECMセルの裏側方向側に取り付けられていた。
  - 配線の引き回しの関係で、ECMの二つのGND端子の他方の端子に結線されていた。
  - プリント版の、スクリーン印刷が異なる。文字の向きが逆になっている。
  - プリント板のリード取り付け部分のパターン形状に若干の違いがある。
  - ECMセルの固定部品(プラスチック)の色が異なる。

6-2. 改造
・ 詳細の回路を再度確認し、PT板上の回路の変更は、1号機と同様に行った。
・ 1号機では、デッドニングのためにECMセルの固定部品に緩衝材を詰めたが、
  ECMセル固定部品のECM近傍のスリットを塞がないようにするため、この緩衝材は外した。
  裏側からこのスリットを通ってECMの表側に回り込む音波も考慮されて指向性(Cardioid特性)が
  設計されているだろうと考えたためである。
・ ECMセル固定部品の台座を緩衝材で浮かせ、直径1mmのゴム釣り糸(裁縫用)で
  固定させれば、従来の方法と遜色ない十分なデッドニングの効果が得られるを確認した。
・ PT板を取り付ける側は、1号機に合わせてECMセルの表側に変更した。
  なお、配線の引き回しの関係で、二つあるECMのGNDは1号機と反対側に結線されていた。
  ECMに熱を加えると劣化するので、GND引き出し位置はそのままにした。
・ ツェナーの電圧に若干の違いがあった。  1号機:: 9.13V、 2号機: : 8.78V
・ 初段のFETのソース電流の違い(2.2kΩ抵抗電圧)。
  1号機: 0.673V,(0.309mA)、 2号機: 0。587V,(0.271mA)

6-3 改造後
・ 位相を確認したところ逆相である。見た目の部品、回路、レイアウトは全く同じ。
 PT板は、シルクスクリーン印刷の文字や、方向が異なっているので、製造は明らかに別LOT。
 - PT板パターンは、47オームの抵抗の接続位置を替える事で極性変更できる構造になっているが
   その変更は無く、また、PT板上のフェーズスプリッタ付近のパターンも同じであった。
 - ECMの極性が逆としか考えられない。
  外見上、 両方形状が同じで、バックエレクトレット型に思える。
  1号機は、改造前の位相が逆であったので 新シリーズでは同じ電子回路でも正位相になるように
  エレクトレットの帯電方向が逆にしたのかも知れない。 その様な帯電が可能なのかわかりませんが。。
 - S-Followerに改造して、正位相にするため、止むなくコネクタ部の2ピンと3ピンの配線を入れ換えた。

6-4. 構造写真
 <BM-800 2号機 外観>
  
  ・メーカーは1号機と異なるが 作り(外見、部品)はそっくり。新シリーズと記載されていた。

 <BM-800 1号機 デッドニング 変更>
  
  ・ECM取り付け部品(プラスチック)の溝に入れた緩衝材をとり外し、台座の固定には、ゴム釣糸を使用した。
 <改造後のECMセル周辺の比較>
<ECMセル周辺の比較 左: 2号機 、右: 1号機>
  

   ECM 正面の比較 ECM 裏面の比較
<プリント板の比較 左: 2号機 、右: 1号機、 全体比較>
  

   ECM 正面の比較 ECM 裏面の比較

<6-3. 特性比較
 ・ 周波数特性計測の信号源は PC WaveGene を使用した。
 ・ 単体スピーカーの直前に、ほぼ等距離の位置(約15cm)に2本のマイクを置いて収録した。
   下記データは、左-chは1号機、右-chは 2号機を接続して計測したもの。
 ・ 狭い居室でカーテンを引いた音場で収録したので 近接反射の影響が大きい(はず)。>
 ・ そこそこ 音楽録音にも使えるレベルなのかな と 推定している。

1) スピーカー発声 → マイク集音 周波数特性 スピーカー:Pioneer CS-700(3ch 密閉型スピーカ)
  左-chの2.5kHz付近の ディップの原因は 反射音の影響らしい。

  
  ・L-chは 20db下げて表示している。 スピーカーは Pioneer CS-700

2) 2本のマイクの左右位相差計測。 1)とは異なる部屋で収録。
  右上グラフのXYリサージュ波形が R/Lのマイクの位相差を示す。
  第1象限で 直線になれば位相差が0であることを表す。 
  実験では少し幅を持つので、多少の位相差の周波数依存性があることを示す。
 (note)
  音波波形と周波数スペクルは片CHだけを表示。赤線はpeak値を表示したもの。


 <オーケストラの音楽を再生し集音>
  
  (ランダムな周波数領域を含む オーケストラ音楽集音)

 <ニュース放送を再生し集音>
  
  (人の音声が主の ニュース番組集音)


6-6. ステレオマイク外観

・マイクスタンド
 カメラの三脚でも使え、次の二つのマイキング方式に対応できるスタンドを考案した。

1) フランス ORTF方式: カーディオイドマイク  2本、間隔 = 6.7インチ(17cm)間隔、開き角 = 110度、
2) オランダ NOS方式 : カーディオイドマイク  2本、間隔 = 12インチ(30cm)間隔、 開き角 = 90度
  の両方に対応。

- 取り付けは、加工作成した 17cm長のブームを使用。
  中央にカメラ用三脚向けに W1/4インチネジ、または、マイクスタンド向けに 3/8インチ、
   + マイク用 5/8インチ(マイク用)ネジ2本がある。
 1)ORTF
   中央: カメラ用三脚 1/4インチネジで固定
   両端: ショックマウントをブームと直角の取り付け、指向性(角度)はマイクをゆるめて調整する
 2)NOS
   中央: カメラ用三脚 1/4インチネジで固定
   両端: マイクの間隔を30cmにするように、ショックマウントを外向きに取り付け、
   指向性(角度)はマイクをゆるめて調整する。

 < BM-800 1号機 + 2号機 による ステレオマイク>
  
  ・カメラ用三脚に取り付けた ステレオマイク。

・マイク信号受信
- D/Aコンバータ  ローランド UA-25EXに 二本のXLRケーブルで接続する



音楽収録に耐えられそうなステレオマイクができた。
今後、ビデオカメラ撮影時のステレオ音収録に活用していこう。


メデタシめでたし (^_^)